「自分が楽しいと確信できれば、人生は正しい方向に進む。あとはその環境を整えるだけ」
そう語るナタリーは、東京で仕事と所有物に執着を持たない暮らしを始めた。
1998年に出版されたノンフィクション「東京外国人」(メディアワークス刊、主婦の友社発売)に筆者が寄稿した原稿を改稿、改題した短編作品である。
クールジャパンが広がる前のフランスで「日本オタク」を先駆け、日本で暮らし始めた3人のフランス人をインタビュー。フランスの文化と東京の文化が融合した、ありのままの心象風景をスケッチした貴重な原稿。
語学学校教師、銀行マン、大学院生の彼らは、ごく平凡に東京で暮らしているが、自分らしい他者とのつながり方を貫いて、目に見えない自分の世界を大切に守り、育んでいた。
大手証券会社が破綻し日本人の仕事への価値観が揺れ始めた時代、自分らしい幸福を東京に根付かせようとする、フランス人の日常を切り取ったインタビューエッセイ。
○著者あとがきより抜粋
あの頃からすると、東京で見上げる空を随分やさしく感じるようになった。私自身が変わったのか、震災を始めとする想像もしなかった出来事が東京の空気を変えたのか。
取材ノートを再読して、私は「時間」の不思議を思った。自覚はなかったが、私は当時の東京ではなく、今の東京の風景を三人の心の窓を通して見つめていた気がしてならない。
彼らの日常の断片を、その時には未来であった「今」から光を当て直し、この原稿の先の風景を見てみたい。そんな気持ちで三人のインタビューの出版を決めた。
(中略)
取材対象は国や企業から派遣されて職務上滞在しているフランス人を避け、自分で家賃を支払い主体的に東京暮らしを選んでいるフランス人に絞った。
損得抜きの動機から東京暮らしにこだわるフランス人は結果的に、当時はまだマイノリティであった「日本オタク」を先駆けるフランス人ばかりになった。
彼らはごく普通に暮らしながら、とても意図的に、繊細に自分自身の時間を生きていた。
年齢は二十代後半であったが、この社会で優位に立つことに関しては無関心で、いわゆる
野心や理想はない。しかし受け身に見えて、自分の心の平和を誰にも奪われない暮らし方
を模索し、東京という欧州の常識から遙かに遠く離れた極東の街までたどり着いたのだ。
彼らが東京で紡ぐ静かな時間は、周囲の日本人に少なからず影響を与えていた。
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