■目次
序論
1章 アート・プロジェクトとは何か
1-1 日本のアート・プロジェクトの現状
1-2 「アート・フェスティバル」と「アート・プロジェクト」
1-3 「パブリック・アート」と「アート・プロジェクト」
1-3-1 「パブリック」についての考察
1-3-2 リチャード・セラの事例
1-3-3 Chim↑Pomの事例
1-3-4 「パブリック・アート」と「アート・プロジェクト」の関係についての考察
1-4 「展覧会・公募展」と「アート・プロジェクト」
2章 アート・プロジェクトの歴史
2-1 海外のアート・プロジェクトの歴史
2-1-1 国際展の歴史
2-1-2 アースワークとの関係
2-2 日本のアート・プロジェクトの歴史
2-2-1 個人発信のプロジェクト
2-2-2 団体発信のプロジェクト
3章 日本のアート・プロジェクト
3-1 日本のアート・プロジェクトの概要
3-2 取手アートプロジェクト
3-2-1 取手アートプロジェクト1999年から2002年
3-2-2 取手アートプロジェクト2003年から2006年
3-2-3 取手アートプロジェクト2007年から2009年
3-2-4 取手アートプロジェクトのまとめ
3-3 大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ
3-3-1 2000年1回目開催時
3-3-2 2003年2回目開催時
3-3-3 2006年3回目開催時
3-3-4 2009年4回目開催時
3-3-5 大地の芸術祭のまとめ
3-4 横浜トリエンナーレ
3-4-1 2001年1回目開催時
3-4-2 2005年2回目開催時
3-4-3 2008年3回目開催時
3-4-4 横浜トリエンナーレのまとめ
3-5 3例のまとめ 3例から見えてきたことと一般化
3-6 その他の事例
3-6-1 神戸ビエンナーレ
3-6-2 所沢ビエンナーレ
3-6-3 黄金町バザール
3-6-4 瀬戸内国際芸術祭
3-6-5 広島アートプロジェクト
3-7 インタビュー、アンケート
4章 研究と創作活動の連関
4-1 大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ
4-1-1 2006年(3回目)開催への参加:「脱皮する家」
4-1-2 2009年(4回目)開催への参加:イベントなどの撮影と他の作家の作品撮影
4-1-3 作家として参加
4-2 森塾
4-2-1 組織概要
4-2-2 活動の詳細
4-2-3 活動のまとめ
4-3 パレスチナのハートアート・プロジェクト
4-3-1 組織概要と活動事例
4-3-2 活動のまとめ
5章 結論
5-1 アート・プロジェクトの意味 -アート・プロジェクトとは何か-
5-2 アート・プロジェクトの特徴
5-3 まとめ
参考文献一覧
参考図表一覧
後書き
■要旨
序論
近年、日本国内の美術の領域では「アート・プロジェクト」という用語が盛んに使用され、アート・プロジェクトと称する活動体も増加し続けている。しかしながらアート・プロジェクトに関する、個々の展覧会記録や報告書などはあるものの、俯瞰的で丁寧な論考や分析を試みた研究は殆ど見られない。
本論文の目的は、日本では未だ充分成熟していないと考えられる「アート・プロジェクト」に関する基礎研究である。「アート・プロジェクトとは何か」、その条件や問題点を調査整理し、その本質や展望を論考する。序論では本研究を行うに至った動機、本研究の問題の所在、目的と方法および意義について述べる。また論文全体の展望と構成を提示する。
1章 アート・プロジェクトとは何か
まずアート・プロジェクトの定義を試みるに当たって、辞書やアート・プロジェクトの活動体が定義している意味に着目した。次いで「アート・フェスティバル」、「パブリック・アート」、「展覧会・公募展」などと比較し、アート・プロジェクトの持つ歴史や性質を考察した。
さらに、日本で開催されたアート・プロジェクト60組を調査し、その各特質に注目した。そして、こうしたアート・プロジェクトの分類図を作成し、日本におけるアート・プロジェクトの概観を試みた。ひとつは「一時的⇔恒久的」を縦軸とし、「学び⇔遊び」を横軸にしたもので、ここでは「展覧会型」、「フェスティバル型」、「公共芸術型」、「教育・社会活動型」に分類(参考図表1参照)。さらに別の視点からの分類図、つまり「個人的(小規模)⇔集団的(大規模)」を縦軸とし、「民間主体⇔行政主導」を横軸にした場合では、「個人プロジェクト型」、「大規模展覧会型」、「民間主体型」、「行政主導型」に分類した(参考図表2参照)。
2章 アート・プロジェクトの歴史
本章では国際的な展覧会とアート・プロジェクトの歴史との接点について考察した。世界的に見ると、ベネチア・ビエンナーレ(1895年~)やカーネギー・インターナショナル(1896年~)は例外として、1950年代から国際的な展覧会が開催され始める。戦後の美術界は世界的に「今までの美術のあり方を問う」流れが出始め、美術作品の展示場所が美術館の外側に出て行く傾向が一部見られる。野外展、パブリック・アート、アースワークなどである。それらの流れとアート・プロジェクトの展開は相互に影響が見られる。
その後、日本のアート・プロジェクトの起源をめぐって考察した。この考察は個人発信のプロジェクトと団体発信のプロジェクトに分けて行った。個人発信のプロジェクト例として、川俣正、クリスト、宮島達男の3例を検討した。そしてこの3例だけでも、すでにその後のアート・プロジェクトの特色がある事が分かった。団体発信の例としては「自由工場」、「水の波紋95」の2例を検討した。この2例からこうした団体発信の企画者やそこに関わったアーティストが、その後に他のアート・プロジェクトに参加したり企画を立てるなどの動きが見られる事が明らかになった。
3章 日本のアート・プロジェクト
日本のアート・プロジェクトのうち、「取手アートプロジェクト」、「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」、「横浜トリエンナーレ」の3例に的を絞り、より詳細に考察を進めた。この3例は継続性や認知度などからいってデーターに汎用性が認められるからである。
この3例の考察から、大地の芸術祭は横浜トリエンナーレと逆の性質を多く持つことが分かり、そこで対比的分析指標を抽出した。その結果、大地の芸術祭は「地域のアート」、「自然のアート」、「唯一性」、「サイトスペスィフィック」、「地域的特性」、「オープンスペース」、「ニーズ」、「過程」の指標を持つ、「体験型」のプロジェクトであり、横浜トリエンナーレは「都市のアート」、「画一性」、「ユニバーサル」、「グローバル」、「ホワイトキューブ」、「デマンド」、「結果」の指標を持つ、「鑑賞型」のプロジェクトであると性格付けられた。さらに取手アートプロジェクトはその中間に位置すると結論付けた。
また加えて、実地調査を行ったもので注目すべきもの、すなわち「神戸ビエンナーレ」、「所沢ビエンナーレ」、「黄金町バザール」、「瀬戸内国際芸術祭」、「広島アートプロジェクト」などを、その他の事例として比較検討した。そして、上述した3例以外にも様々な特徴を有したアート・プロジェクトが日本で展開されている事を示した。
最後にインタビュー、アンケート、講演記録などの資料を提示しながら、企画者や鑑賞者などの視点からも論考した。
「大地の芸術祭」の総合ディレクターの北川フラムにインタビューを行った。北川は「アート・プロジェクト」を「地域的なアート・プロジェクト」と呼ぶべきであると主張した。又、これまでの企画で地域の中のアート・プロジェクトを意識的に行ってきた点などが明らかになった。
また、アンケート調査では大地の芸術祭会場を実施場所として55名から回答を得た。「アート・プロジェクト」という用語の認知率が65.45%であるということ、また「アート・プロジェクトらしさ」として「市民が参加すること」、「地域に変化を与えること」、「活動に柔軟性を持つ」、「新しい価値観を創造する」などが高い回答率を得たことなど、アート・プロジェクトに対する客観的な視点を提示した。
4章 研究と創作活動の連関
本章では、様々なアート・プロジェクトに参加し、フィールドワークを行ってきた経験から、アート・プロジェクトが実際にどのような形で「実行」されるのかについて考察した。アート・プロジェクトを内側から解剖する試みである。
具体例は「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」、「森塾」、「パレスチナのハートアート・プロジェクト」の3例である。「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」では地域の中でどのようにアートが展開されるか実体験を元に考察した。「森塾」では一つのプロジェクトの始まりから終わりまで実践的に関与した。「パレスチナのハートアート・プロジェクト」では国境を越えて社会の中でどうアートが生かされていくかを考察した。
5章 結論
これまでに、日本で開催された60組のアート・プロジェクトを調査し、そのうち19組を実地調査した。本章ではアート・プロジェクトの意味、機能、意義などに関する論考を展開し、最後に今後のアート・プロジェクトの展望について提言した。
序論
1章 アート・プロジェクトとは何か
1-1 日本のアート・プロジェクトの現状
1-2 「アート・フェスティバル」と「アート・プロジェクト」
1-3 「パブリック・アート」と「アート・プロジェクト」
1-3-1 「パブリック」についての考察
1-3-2 リチャード・セラの事例
1-3-3 Chim↑Pomの事例
1-3-4 「パブリック・アート」と「アート・プロジェクト」の関係についての考察
1-4 「展覧会・公募展」と「アート・プロジェクト」
2章 アート・プロジェクトの歴史
2-1 海外のアート・プロジェクトの歴史
2-1-1 国際展の歴史
2-1-2 アースワークとの関係
2-2 日本のアート・プロジェクトの歴史
2-2-1 個人発信のプロジェクト
2-2-2 団体発信のプロジェクト
3章 日本のアート・プロジェクト
3-1 日本のアート・プロジェクトの概要
3-2 取手アートプロジェクト
3-2-1 取手アートプロジェクト1999年から2002年
3-2-2 取手アートプロジェクト2003年から2006年
3-2-3 取手アートプロジェクト2007年から2009年
3-2-4 取手アートプロジェクトのまとめ
3-3 大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ
3-3-1 2000年1回目開催時
3-3-2 2003年2回目開催時
3-3-3 2006年3回目開催時
3-3-4 2009年4回目開催時
3-3-5 大地の芸術祭のまとめ
3-4 横浜トリエンナーレ
3-4-1 2001年1回目開催時
3-4-2 2005年2回目開催時
3-4-3 2008年3回目開催時
3-4-4 横浜トリエンナーレのまとめ
3-5 3例のまとめ 3例から見えてきたことと一般化
3-6 その他の事例
3-6-1 神戸ビエンナーレ
3-6-2 所沢ビエンナーレ
3-6-3 黄金町バザール
3-6-4 瀬戸内国際芸術祭
3-6-5 広島アートプロジェクト
3-7 インタビュー、アンケート
4章 研究と創作活動の連関
4-1 大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ
4-1-1 2006年(3回目)開催への参加:「脱皮する家」
4-1-2 2009年(4回目)開催への参加:イベントなどの撮影と他の作家の作品撮影
4-1-3 作家として参加
4-2 森塾
4-2-1 組織概要
4-2-2 活動の詳細
4-2-3 活動のまとめ
4-3 パレスチナのハートアート・プロジェクト
4-3-1 組織概要と活動事例
4-3-2 活動のまとめ
5章 結論
5-1 アート・プロジェクトの意味 -アート・プロジェクトとは何か-
5-2 アート・プロジェクトの特徴
5-3 まとめ
参考文献一覧
参考図表一覧
後書き
■要旨
序論
近年、日本国内の美術の領域では「アート・プロジェクト」という用語が盛んに使用され、アート・プロジェクトと称する活動体も増加し続けている。しかしながらアート・プロジェクトに関する、個々の展覧会記録や報告書などはあるものの、俯瞰的で丁寧な論考や分析を試みた研究は殆ど見られない。
本論文の目的は、日本では未だ充分成熟していないと考えられる「アート・プロジェクト」に関する基礎研究である。「アート・プロジェクトとは何か」、その条件や問題点を調査整理し、その本質や展望を論考する。序論では本研究を行うに至った動機、本研究の問題の所在、目的と方法および意義について述べる。また論文全体の展望と構成を提示する。
1章 アート・プロジェクトとは何か
まずアート・プロジェクトの定義を試みるに当たって、辞書やアート・プロジェクトの活動体が定義している意味に着目した。次いで「アート・フェスティバル」、「パブリック・アート」、「展覧会・公募展」などと比較し、アート・プロジェクトの持つ歴史や性質を考察した。
さらに、日本で開催されたアート・プロジェクト60組を調査し、その各特質に注目した。そして、こうしたアート・プロジェクトの分類図を作成し、日本におけるアート・プロジェクトの概観を試みた。ひとつは「一時的⇔恒久的」を縦軸とし、「学び⇔遊び」を横軸にしたもので、ここでは「展覧会型」、「フェスティバル型」、「公共芸術型」、「教育・社会活動型」に分類(参考図表1参照)。さらに別の視点からの分類図、つまり「個人的(小規模)⇔集団的(大規模)」を縦軸とし、「民間主体⇔行政主導」を横軸にした場合では、「個人プロジェクト型」、「大規模展覧会型」、「民間主体型」、「行政主導型」に分類した(参考図表2参照)。
2章 アート・プロジェクトの歴史
本章では国際的な展覧会とアート・プロジェクトの歴史との接点について考察した。世界的に見ると、ベネチア・ビエンナーレ(1895年~)やカーネギー・インターナショナル(1896年~)は例外として、1950年代から国際的な展覧会が開催され始める。戦後の美術界は世界的に「今までの美術のあり方を問う」流れが出始め、美術作品の展示場所が美術館の外側に出て行く傾向が一部見られる。野外展、パブリック・アート、アースワークなどである。それらの流れとアート・プロジェクトの展開は相互に影響が見られる。
その後、日本のアート・プロジェクトの起源をめぐって考察した。この考察は個人発信のプロジェクトと団体発信のプロジェクトに分けて行った。個人発信のプロジェクト例として、川俣正、クリスト、宮島達男の3例を検討した。そしてこの3例だけでも、すでにその後のアート・プロジェクトの特色がある事が分かった。団体発信の例としては「自由工場」、「水の波紋95」の2例を検討した。この2例からこうした団体発信の企画者やそこに関わったアーティストが、その後に他のアート・プロジェクトに参加したり企画を立てるなどの動きが見られる事が明らかになった。
3章 日本のアート・プロジェクト
日本のアート・プロジェクトのうち、「取手アートプロジェクト」、「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」、「横浜トリエンナーレ」の3例に的を絞り、より詳細に考察を進めた。この3例は継続性や認知度などからいってデーターに汎用性が認められるからである。
この3例の考察から、大地の芸術祭は横浜トリエンナーレと逆の性質を多く持つことが分かり、そこで対比的分析指標を抽出した。その結果、大地の芸術祭は「地域のアート」、「自然のアート」、「唯一性」、「サイトスペスィフィック」、「地域的特性」、「オープンスペース」、「ニーズ」、「過程」の指標を持つ、「体験型」のプロジェクトであり、横浜トリエンナーレは「都市のアート」、「画一性」、「ユニバーサル」、「グローバル」、「ホワイトキューブ」、「デマンド」、「結果」の指標を持つ、「鑑賞型」のプロジェクトであると性格付けられた。さらに取手アートプロジェクトはその中間に位置すると結論付けた。
また加えて、実地調査を行ったもので注目すべきもの、すなわち「神戸ビエンナーレ」、「所沢ビエンナーレ」、「黄金町バザール」、「瀬戸内国際芸術祭」、「広島アートプロジェクト」などを、その他の事例として比較検討した。そして、上述した3例以外にも様々な特徴を有したアート・プロジェクトが日本で展開されている事を示した。
最後にインタビュー、アンケート、講演記録などの資料を提示しながら、企画者や鑑賞者などの視点からも論考した。
「大地の芸術祭」の総合ディレクターの北川フラムにインタビューを行った。北川は「アート・プロジェクト」を「地域的なアート・プロジェクト」と呼ぶべきであると主張した。又、これまでの企画で地域の中のアート・プロジェクトを意識的に行ってきた点などが明らかになった。
また、アンケート調査では大地の芸術祭会場を実施場所として55名から回答を得た。「アート・プロジェクト」という用語の認知率が65.45%であるということ、また「アート・プロジェクトらしさ」として「市民が参加すること」、「地域に変化を与えること」、「活動に柔軟性を持つ」、「新しい価値観を創造する」などが高い回答率を得たことなど、アート・プロジェクトに対する客観的な視点を提示した。
4章 研究と創作活動の連関
本章では、様々なアート・プロジェクトに参加し、フィールドワークを行ってきた経験から、アート・プロジェクトが実際にどのような形で「実行」されるのかについて考察した。アート・プロジェクトを内側から解剖する試みである。
具体例は「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」、「森塾」、「パレスチナのハートアート・プロジェクト」の3例である。「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」では地域の中でどのようにアートが展開されるか実体験を元に考察した。「森塾」では一つのプロジェクトの始まりから終わりまで実践的に関与した。「パレスチナのハートアート・プロジェクト」では国境を越えて社会の中でどうアートが生かされていくかを考察した。
5章 結論
これまでに、日本で開催された60組のアート・プロジェクトを調査し、そのうち19組を実地調査した。本章ではアート・プロジェクトの意味、機能、意義などに関する論考を展開し、最後に今後のアート・プロジェクトの展望について提言した。