0.はじめに
英語のmore thanと日本語の「以上」は、意味が異なることが知られている。<more than X(Xは通例数値)>はXを含まないのに対し、「X以上」はXを含むからである。
最近(2015年3月)、ある言語学者とのある言語現象に関する非公式な語らいの中で、「次の(1)文のmore thanは文法的にはthree hundredを含まないのであるが、その日本語訳の『300人以上』も300人を含まないと考えるのが常識的であろう。でも何故、このような<通常の語法に反する意味的現象>が起こるのだろうか?」という話題に花が咲いた。
(1)The hotel features ballrooms, each of which accommodates more than three hundred people.
通常、(1)文の翻訳は、(2)とするのが普通で、(3)とすると別に何か特別の意図が感じられて可笑しい。
(2)そのホテルの特徴はそれぞれ300人以上を収容する大広間があることだ。
(3)?そのホテルの特徴はそれぞれ301人以上を収容する大広間があることだ。
しかも、その(2)文の意味が、例えば(4)のような状況(全ての部屋が300人を超える)が極めて自然で、文法的には正しい(5)のような状況(1つ[または2つ]が300人ちょうど)は少しだけ不自然な感じがする。「これはどういうことなのか、真相は全くの謎だ」ということになった[(6)参照]。
(4)a. Room A 315名収容
b. Room B 310名収容
c. Room C 305名収容
(5)a. Room A 315名収容
b. Room B 310名収容
c. Room C 300名収容
(6)a. … each of which accommodates more than 300 people
→ (4)の状況⇒OK / (5)の状況⇒NO
b. … 各々(の部屋が)300人以上を収容する
→ (4)の状況⇒OK / (5)の状況⇒?
論理的には正しくても、(2)の意図するところが、(7)ということは全くあり得ないであろう。
(7)a. Room A 300名収容
b. Room B 300名収容
c. Room C 300名収容
本稿は、上記の言語現象に関する話題をきっかけに、英語のmore thanと日本語の「以上」を、種々の側面から考察し、言語学的な存在意義を明らかにすること、そして、更に、この表現形式の差が欧米文化と日本文化の違いとどう関わっているかを掘り下げることを目的とする。
This site is safe
You are at a security, SSL-enabled, site. All our eBooks sources are constantly verified.