「革命前夜 マイクロポイント前奏曲」本のタイトルから本の中身を想像できる人は、殆ど皆無に違いありません。「前奏曲」と言うからには、何やら音楽の本?・・・ではありません。
そもそも「マイクロポイント」という言葉は、本書の背景である専門分野、コンピュータ・グラフィックス(以下、CG)を生業とする人にとっても殆ど初耳なのが現実です。
マイクロポイントは、CGの一役を担うレンダリング技術に革命を齎す新しい発想に基づくレンダリング手法で、過去の関連論文を検索すると、1978年エド・キャットムル(Edwin Catmull)がSIGGRAPH(Special Interest Group on Computer Graphics)で発表したアンチ・エイリアシング(anti-aliasing)の論文まで遡る必要があります。それ以降、発表されたレンダリング関連の論文を紙屑同然にするのがマイクロポイントです。
私が最初にマイクロポイントの発想を獲たのは、おそらく西暦2000頃、既に前世紀の話です。「ピクセルレス・サンプリング」という論文を第16回NICOGRAPHに学会発表して後、半年ぐらい経ってからと、記憶しています。翌年にはWEB上で基礎理論を公表し、その後、検証のため、一部機能をC#というプログラミング言語で記述しています。しかしマイクロポイントの正式な論文発表が行われるのは、それから10年の後、共同研究者飯倉宏治により、マイクロポイントの完全な実装が行われ、検証を経た後、2012年の映像メディア学会が最初です。
物理学の世界では、理論屋と実験屋の役割分担が明確で、理論が確立して後、実験による検証が10年後というのは、至極当然に受け入れられています。しかし、ことCG分野に限れば、我先に成果を発表したがるのが研究者の性で、理論が確立して後、10年、冬眠状態というのは、異例中の異例です。マイクロポイントのこの時間ギャップは何故起きたのか?
その理由を紐解くのが本書の役割です。
本書は、マイクロポイントの解説書でありながら、量子力学、カメラやデジタル録音の起源、日本のCGの創世記に至るまで、相互に関連し絡み合う様々なエピソードから構成され、必ずしもCGの専門家でない読者にも、充分に興味深い内容で構成されています。そして何より、似非CG専門家、研究者には到底、立ち入ることも儘ならないCGの本質的問題を言及し、唯一の解決手段であるマイクロポイントの10年に及ぶ戦いの歴史を解説しています。
もしあなたが、今、CG、VFX産業に何らかの形で携わり、この本を面白いと感じなければ、残念ながら、あなたには転職を勧めざるを得ません。本書では、今まで誰もが語ることを憚ったVFX産業、CG研究の真実が語られています。
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