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    gensounomirai (Japanese Edition)

    By tomikazeshimao

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    『幻想の未来』作品梗概
                   富風 島緒
    今から約五十年後、われわれの孫の時代の日本。大胆な改革をすることができず、妥協と問題の先送りをし続けた日本は、この物語の時代ひどい閉塞状況に陥っていた。改革を旗印に庶民に絶大な人気を誇ったあの首相の、今度はその孫が、この閉塞状況に総理大臣に就任し、祖父と同じように大胆な改革を断行していく。しかし、その改革の内容たるや国家公務員をはじめとするエリート職業の世襲制固定であったりと、詭弁・強弁を武器に自分流改革を推し進めていく。だが、もはや国民の大多数を占める下層階級庶民は自ら考える習慣を失い、政府のやり方を黙認し無言の支持を与えている。このような未来の時代状況下、下層階級の一家四人の生活を描き、日本社会や日本人の本質的な問題、青年の成長を描いた作品である。
     主人公一家のうちの高校生の正人は無気力で勉強にもスポーツにもまったく興味が持てない。クラス担任の近藤は、教育委員会の成果主義的評価制度により、数字よる結果が求められており、ノルマを達成するために生徒の尻を叩き追い詰めるが、生徒達は期待にちっとも応えようとしない。正人はクラスの気になる女子美奈子だけを追っているが、正人の一方的な気持ちは美奈子には受け入れられない。美奈子は、町の警察署長の息子と付き合っていて、結婚により上流階層へと上っていくことを夢見ている。しかし、署長の息子グループに強姦され、子どもを身ごもり、高校を中退する。
    そんな折正人は公園でホームレスの男性に会う。ホームレスは自称元「大学教授」で、国家の陰謀でホームレスになったと言う。言動の無茶苦茶なホームレスであるが、実は作品中では正人のメンター役として正人の成長を導いている。また、ホームレスの支援者である大友はフリースペースを作り若者支援もしていて、正人の進路について世話を焼く。正人の妹は小学生のくせにませていて、渋谷の町で友達と遊んでいる時、男に声をかけられ監禁されるという騒動を引き起こす。これも下流の女子が、女を武器に金を稼ごうとする本能的な行動の現れ。やがて、正人は高三となり進路を決めなければならず、教師の勧めで海外派兵隊へ応募するが、土壇場の面接で断り学校のメンツを潰す騒動を引き起こす。その後、大学受験をするがうまくいかない。受験結果の発表日も目近なときに失業中だった父親が、自殺をし脳死状態になる。臓器不足のため、斡旋人から母親と正人は臓器提供を強く求められ、臓器を提供する。父の死後、一周忌まで正人は自宅で引きこもる。引きこもりの中で、今までのいろいろな事件、いろいろな人との関わり合いを反芻し、正人は成長していき、引きこもりから抜け出せるきっかけがつかめたところでこの物語りは終わる。

    ここに小説冒頭部分を紹介いたします。興味を持ってくださり、お手にとって読んでいただければ幸いです。

    場面1:首相
    20XX年、日本。テレビ画面の向こうではあの男がまた叫んでいた。
    「民自党をぶっ壊す!」 
    腕を一本高く突き出す独特の決めポーズにテレビのこちら側、全国のお茶の間では喝采の拍手が送られていた。この男、壊すと言っても、今まで一度も自分の出自母体をぶち壊したことなどないのだが。ポーズが決まったのをきっかけに、記者団が回りを取り囲み、この男に一斉にマイクを向ける。
    「総理、ご苦労様でした。それでは共同記者会見を始めたいと思います。今のポーズたいへん決まっていらっしゃいましたね。」
    「そりゃそうでしょう。」
    男がひときわ甲高い声でしゃべり出す。
    「うちのお祖父さんが始めたのだもの。私はドン・キホーテと呼ばれてもいい。とにかく民自党をぶっ壊す。」
    パラパラと記者団から拍手が起こる。
    「ところで総理、その頭なんですが、ちょん髷のように見えます。」
    「あんた何を言っているんですか。われわれは誇り高き武士の末裔なんですよ。この改革が求められる時代に、われわれは偉大な祖先と偉大な祖国を見習わなくちゃいけない。」
    総理と呼ばれたその男が滔滔と祖国愛だの、伝統文化だのを唱えているのを、正人と父親はぼんやりと見つめていた。父親は画面に向かっていつものようにボソボソと話しかけている。
    「確かこいつの父親も政治家だった。そしてじじいは総理大臣をやった。そしてじじいの親父も、そしてその親父も確か政治家、郵政大臣かなんかをやったはずだ。」
    テレビに向かって独り言をいう父親の存在は、正人にとっては空気のようなものだ。何がしたいのかわからず、何の目標も持たずに行っている高校から、今日も正人は帰ってきて、茶の間でぼんやりテレビを見ている。高校へ行かないという反逆の意思を示すこともできず、ただ流されているだけだ。多くの部屋などあるはずもない、狭い取り散らかった安アパートの一室では、テレビの置いてあるこの茶の間にしか居場所はない。父親は十日前に派遣労働の雇い止めにあって以来、仕事をしていない。一日中ずっと部屋でテレビを見ている。しばらくしたら職業安定所に行くとは言っていたが、どうせこの年齢ではと、行く前からあきらめかけている。母親は昼と夜とでパートの掛け持ちをすることになった。近所の豚カツ屋で三時まで働き、それからスーパーのレジ打ちの仕事に入る。今頃はそろそろ夕方の買い物客で店がにぎわう頃だろう。小学生の妹は外で遊んでいてまだ帰って来ない。小学校の高学年で塾に行っておらず、夕方までそこらをうろついて遊びまわっているのは正人の家と同じく下流の子ばかりに違いなく、正人の妹はそんな家の友達と無邪気に遊んでいるのだろうか。正人はぼんやりと「腹減ったな」と考えた。腹が減ったらどうするか、立って台所に行き何かしなければ食べ物は出て来ない。でも体を動かすのはかったるい。そんなことをしているうちに無為に今日も時が過ぎていく。

    場面2:テレビ
    「さて腹も減ったな。」 
    そう言いだしたのは正人の父親だった。そう言われたことに正人は何も答えず、頭の中でだけ同意した。父親のほうも自分の言葉に返事が返ってくるのはまったく期待していないようで、自らが言葉を継ぐ。
    「あれはどこだっけ、あれは」
     あれとは金のことだ。金なら母親がサイフに入れて戸棚に置いておいてくれる。家の男達が無謀な使い方をせぬようにと、一度に入れておく金額をきちんと決めておく。母さん、財布の金がもうなくなったよ、という正人や父親の顔を胡散臭そうに眺めながら、無駄遣いをするんじゃないよと言って、しわくちゃの札や小銭を財布に入れておく。正人はもちろん自分の小遣い銭をここからくすねていて、それがあたかも父親の無駄遣いであるかのように見えることを楽しんでいた。
    「母ちゃんが帰ってくるまで弁当を食って待ってよう。」 
    父親は独り言のように言い残して出ていった。
    正人はさっそくテレビのリモコンを取りあげると次々とチャンネルを変えていく。俗悪低劣な番組しかやっておらず、アパートの一室にはテレビからの馬鹿げた笑い声が虚しく響いた。テレビは、人間の脳に決して良い影響を与えないという結論が、長い論争の末に科学アカデミーによって発表されたあとで、教育熱心な家庭ではテレビが次々と撤去されていった。この科学アカデミーの調査結果は、わざわざ下流国民にまで知らせるべきでもないと考えられたし、周知させるための広報やらの予算措置についても無駄であろうというのが関係省庁の見解だった。国民全体の福祉のためにテレビを法的に禁止すべきではという議論が出たのだが、下流国民の唯一とも言える娯楽を取り上げることも忍びないし、利権を有する一部関係団体からの反発もあり、いつもの政治的妥協というわけで、テレビセットに対する購買補助金が存続した。こうして正人の家でも、政府から支給された金券を握りしめ、家電量販店で新しいテレビを買ったのだった。
    やがて父親がコンビニエンスストアの袋を下げて帰ってきた。この時代、健康に気を遣う人で、コンビニエンスストアの食料品を買う人は誰もいなかったが、テレビセットに続いて、コンビニエンスストアのおにぎり、カップラーメン、弁当が民自党政権下で「指定購買補助対象物」に選定され、下流国民の主な食料とされていた。補助金という名目で、他の商品には付いている50%の消費税が免除されるのだ。コンビニで出来合いのものを買ってくれば、調理する必要もないし、下流向けと想定されるアパートや賃貸物件の「人間らしい最低限の生活を送るために必要とされる延べ床面積」の基準が引き下げられたが ― 要は台所は要らないということになったのだが ― これは簡単な省令の改正で済んだので、国会で議論されることも報道機関で取り上げられることもなかった。
    正人がリモコンをあちこち変えているとまた大泉首相の会見のチャンネルに戻り、「だからね、私はね、常に国民の生活が豊かになることを考えているんですよ。一体誰です、私のことを反動だなんて言うのは。改革に賛成するか、しないのか、問われているのはね、そこなんですよ.。」
    聞いていてあまりに馬鹿馬鹿しくなって正人はまたチャンネルを変えた。

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