目 次
あんたシーバス、おれ鱸(1)
はじめに
1.釣れない俺
2.兄ちゃん、あれボラちゃうかなぁ~
3.ヘビ・・、なのか・・・?
4.消えた魚
あんたシーバス、おれ鱸(2)
5.何かが違うなあ~、ダメだダメだダメだぁ~!
6.花火大会と柿ピーと、そして『フナムシ天国』
7.ダメならダメでいいやんけ!
8.音を立てて、膝が震える
あんたシーバス、おれ鱸(3)
9. 食えるのか? 食ってもいいのか?
10.わからん!
11.あ~あ、それ聞いちゃうの?
12.目覚めよ!
あんたシーバス、おれ鱸(4)
13.それは、あかんやろ~!
14.失敗してみたら?
15.怖いなぁ~
16.続・怖いなぁ~
あんたシーバス、おれ鱸(5)
17.ファイアー
18.飲み放題ですか?
19.ふ~、まいったね~
20.開けゴマ!
21.加速するぞ!
おわりに
『13.それは、あかんやろ~!』より抜粋
実物以上に大きく写った魚の写真を見て、俺はある出来事を思い出した。具体的な場所や店の名前をここに載せると、俺は追われることになるかもしれないので、そのあたりは曖昧に書くことにする。
その恐ろしい出来事は、北海道の積丹半島で起こっている。季節は夏だ。
大人3人と子供2人で積丹半島にドライブに行く。天気は快晴、群青色の海が太陽の光を反射してきらめく様子がとんでもなく美しい。海沿いの道路を走っているのが本気で気持ちいい。
そんな快適なドライブの途中で一瞬、俺は目の端で《ウニ丼》の広告をとらえた。ウニは大好きだ。
ウニといえば北海道の積丹、そして、ここは積丹。ということで積丹の《本物のウニ丼》を食べようということになり、俺たちは車を止めて立派な構えの店に入った。
メニューを見る。そこには、ラーメンどんぶりと同じくらいのウニ丼の写真が載っており、俺はすっかりハイな気分になってしまった。
「やっぱり積丹はすごいよなぁ~。まあまあの値段だけど結構なボリュームだからな~。このボリュームなら、ウニ丼2つを5人で分けてもお腹一杯やでぇ~。さすがに北海道はでっかいどぉ~」
俺たちが注文してから5分ほどして、店のおばさんが、小さなお椀に入った味噌汁を二つ運んできた。まずは味噌汁で、その後にウニ丼ということでお客を喜ばそうという作戦なわけだな。おばさんが、味噌汁をテーブルの上に“コトっ”と小さな音を立てて置く。
(いや、違う違う、違うぞ。ちらっと見えたぞ、黄色のウニがぁ~~~)
大人3人が笑いながら大声で、松田優作のように同時に叫んだ。
「何じゃ、こりゃ~~。(爆笑)小っさぁ――――っ!」
そして、顔を見合わせて、みんなで腹を抱えてひとしきり笑った。あまりのバカバカしさに笑うしかない状況であり、メニューの写真と実物とのギャップに俺は思ったままの言葉を関西弁で口に出した。
「直径半分ってことは、つまり面積4分の1やで~、体積やったら8分の1や。詐欺で訴えたら簡単に勝てるでぇ~」
俺の関西弁の刺々しい言葉を聞いても、店のおばさんは表情ひとつ変えることなく店の奥に引きあげていった。
・・・中略・・・
《人として、ほんまに、これは、あかんやろ~ 》
もし、どんな理不尽で愚かなことをされても『ありがとう』と言える《ありがとう聖人》なる人物が世の中にいたとしても、この店のウニ丼を見たら、『おいおい、これは、あかんやろ~、何考えとんねん』と静かな声で言うのではないだろうか。きっと言うだろう。絶対に言ってくれるはずだ。
『16.続・怖いなぁ~』より抜粋
《いるはずのない場所に、いてはいけないものがいると、結構“怖い”ものである》
近所に、“おしゃれな”子犬を飼っている家がある。その子犬の種類も名前は知らないし、知りたくもないのだが、その家の若奥さんがその子犬を散歩させるコースの一つに淀川の河川敷が入っている。晴れた日には、野球グランドの緑がとても心地よい場所だ。
それは良く晴れた夏の朝の出来事であったらしい。
「犬の散歩をしているときに、なんか変なもんが見えたように思って顔を上げたらなぁ、30メートルほど離れた場所から変な男が私のことを見てたわけよ~。でなぁ、その男なんやけどぉ、定番の茶色の通勤カバンを手に持って、コート着て、そのコートの下から素足が見えるんよ~、そして黒い革靴や」
(絵に描いたような、完璧な変態ですなぁ)
「まあ、夏やからな、素足にコートで体温調整するんかなぁ~なんて思ったわけやな」
(普通はそんなふうに思いませ~ん)
「私がその男から5メートルくらいに近づいたときに、その男が“あの~”と声をかけてきたんで顔を上げて視線も上げたんよ。そしたらな、男がコートの前をガバっと全開にして、“ど~ですか?”って聞くわけさぁ」
(ほらね)
「もう、頭の中が真っ白になるわ、腰抜けそうになるわ、○○ちゃん(子犬の名前)も吠えるわで、必死に逃げて、もう大変よ~」
(ご苦労さん、もっと早く気づこうよ。でも怖かっただろうなぁ~)
ということで、淀川の河川敷なんかにも変態おじさんが出没するんだねぇ~。なんだかものすごくベタな感じで微笑んでしまうような小噺ですなぁ~、と苦笑いしながら、俺は心の片隅に仕舞っておくことにした。
そして、11月中旬の淀川、いつもとほぼ同じ夜の10時。いつもの場所に座って煙草に火を着け、大きく吸い込んだ煙をゆっくりと吐き出しながら、水面に目を凝らし、周囲の音に耳を澄ます。
シーバスや鱸の捕食音は聞こえないし、ベイトフィッシュの気配も全く感じることができない。しかし、俺は何かの気配を背後に感じて、さっと後ろを振り向く。
俺の目に、男の姿が飛び込んでくる。ここからはスローモーションだ。コートから素足がのぞいており、その姿を横目で見ながら、「うわ~~っ」と声を上げて淀川の水の中に10メートルほど走り込み、そして、つまづいて倒れ込む。俺は、100点満点のリアクション芸人のように全身ほぼズブ濡れになりながら、ついさっきまで俺がいた川岸を見た。
その男が、ご近所の若奥さんが目撃した変態男であることに、この時の俺はすでに気がついている。
(なんで夜の淀川に出没すんだよ~、怖すぎじゃね~かよっ!)
淀川の中で全身ズブ濡れになっている俺は、川岸にボーっと立っている変態コート男が一瞬楽しそうな表情になったのを見逃さなかった。俺の一連の反応がかなり笑えるのは間違いない。立場が逆なら、俺は大爆笑しているだろうからな。
(明るい時間帯に女性をビックリさせて興奮するのは何となく分からんでもないが、夜に男を驚かせる気持ちは、まったく理解できんぞ。あんたの目的は何なんだ?)
変態コート男は、俺に背を向け、暗闇の中に、ゆっくりと歩き去っていった。
(わからん・・・・)
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