スマートフォンなどのコンピューター端末が、社会のあらゆるところに入り込んでいる。デジタル化された情報の収集、解析、伝達、応用が加速され、人々は、社会でも家庭でも、情報インフラの進歩に追いつくのに精一杯だ。世界中のコンピューター端末がインターネットで結ばれ、人工知能化しつつあるが、そのことの可否を議論する余裕はない。
基礎研究の仕事で、物事の表面を見ながら、本質を深く洞察する経験を積み上げてきた著者が、この本で最も現代的なテーマに取り組んだ。文明史観に立って、ネット社会の大きな可能性と、それと裏腹の危機を複合的かつ俯瞰的に論じた。
世界中の金融機関から、約500億円を盗んだ犯罪組織がある。FBIなどが捜査しているが、組織の特定はできていない。庶民には驚くほど巨額な窃盗だが、アメリカ、中国などがやっている正規サイバー軍のサイバー攻撃に比べれば、大したことはない。
2013年に世界に衝撃が走った。中国人民解放軍が、世界中の個人、企業、政府機関に対して大規模なサイバー攻撃を加えていることを、アメリカの情報セキュリティ会社が報告書で公表した(マンディアント報告)。また、アメリカの国家安全保障局が、個人、企業、国家首脳、政府機関を標的にした大規模な極秘諜報活動を行っていることを、元CIA職員のエドワード・スノーデンが暴露した。
サイバー空間では、防御側よりも攻撃側のほうが圧倒的に有利になる。身元不明の個人や組織が、多様な意図のもとにうごめいている。プロのサイバー兵士が、機密情報窃取やインフラ破壊などの攻撃を他国に加えている。悪意のある個人やプロ軍団がもたらす最大の脅威は、原子力発電所の爆発と核ミサイルの暴発になる。
インタ-ネットの個人ユーザーも日常的に攻撃されている。日本だけでも、年間80億回に近いサイバー攻撃を受けている。個人情報を盗まれたり、攻撃者が最終標的に攻撃を加えるための踏み台にされている。多くの場合、ユーザーは攻撃されていることに気づかない。本著では、ウイルスなどのマルウェアの特徴と攻撃のパターンや、個人ができるセキュリティ対策にも詳細に触れている。
状況は予断を許さないが、人々が情報インフラの中で起こっているできごとを理解し、問題に適切に対処すれば、被害を超える大きな利益を得ることができる。人工知能化したコンピューター・ネットワークが、人類の文明を先へ進めるような大きな影響を、人間社会に与えることを期待できる。
固定レイアウトで320ページ。索引つき。
「目次」
序章 サイバー戦争に呑み込まれる個人
第1章 サイバー戦争の文明史的考察
科学者にも予想できない未来
コンピューター・ネットワーク化のイノベーション
インターネットの発展で拡大するマルウェア感染
ネット社会への巧妙なサイバー攻撃
決定的に重要な人間ファクター
3つの発明・発見がもたらした功罪
第2章 情報インフラが内包する危機
社会基盤になったコンピューター・ネットワーク
至るところに存在する脆弱性
極端に困難な攻撃元の特定
第3章 大規模サイバー攻撃の標的
企業や政府機関への膨大な数のサイバー攻撃
金融機関の巨額被害
重要インフラへ拡大するサイバー攻撃
第4章 表に出た中国とアメリカのサイバー攻撃
サイバー戦争に対するアメリカの覚悟
中国人民解放軍が攻撃元と特定された衝撃
中国とアメリカの複雑な利害関係
世界に衝撃を与えた元CIA職員の告発
矛盾に満ちたアメリカの理想
第5章 情報戦争が苦手な日本
情報セキュリティの後進国
縦割り行政で迫力のない政府機関
第6章 人類を呑み込むデジタル・インフラ
グーグルの野望
ネット上のデータになる個人
人間の手を離れる巨大データ
急速に未来化する戦争
人類が直面する究極のリスク
終章 未来への希望
「著者のパソコン・インターネット歴」
1995年:日本のインターネット元年といわれるこの年に、仕事でパソコンを使い始めた。
1996年:趣味でウェブサイトを作成。以後、合計5つのサイトを運営。現在は2つのサイトに創作した作品を載せている。
http://essay-hyoron.com/
http://anime-shosetsu.com/
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